乳幼児の世界
[ No1 心を考える ] [ No2 頭について ] [ No3 視力について ]
[ No4 人の鼻とは ] [ No5 耳について ] [ No6 虫歯を考える ]
[ No7 手について@ ] [ No7 手についてA ] [ No8 足について ]
☆心はどこにあるのでしょう
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皆さんは心はどこにあると思いますか。心臓が心ですか?それともその近く?胸の中のどこか? 答えは頭のなか。つまり脳が心なのです。
脳とは数百億個の細胞のかたまりです。そのなかで神経細胞と呼ばれているものが体の他の部分との間の連絡を受け持っています。脳の中では、この情報を伝える神経細胞がたくさんつながっています。 神経細胞は中心の部分(細胞体)が会って、そこからアンテナのように突起が出ています。一本だけ非常に長く伸びていて末端のところで枝分かれしています。 それが神経で他の神経細胞の突起につながります。このつながりはシナプスと呼ばれており一個の神経細胞に数千から数万個もあります。神経細胞のつながりによって神経回路網ができあがります。その回路に情報(神経情報)が伝わって行き、神経細胞の間をぐるぐると走り回っているのです。こうして特定の神経細胞群が働くと特定の働きが起こってきます。手足を動かすことや考えること、話すことなどです。心のいろいろな状態はそれぞれに対応する神経細胞群が働いて起こっているのです。神経細胞の一本の枝が伸びていって他の神経につながり、そのつながりをシナプスと呼ぶと説明しましたが、このとき大切なのはのように髄鞘(ずいしょう)と呼ばれる一種の絶縁体ができないと神経情報がスムーズに伝達されないということです。もう一つ、神経細胞の特色として、生後数が増えないと言うことがあります。皮膚などでは怪我をしても新しい細胞が作られますが、脳のなかで神経細胞が傷ついた場合、神経細胞の再生は、起こりません。神経細胞の数、神経細胞の枝の行き先は遺伝的に決まっています。遺伝で決まらないのは枝のつながり、シナプスです。シナプスの数と働きは遺伝と環境(主に環境)の両方の条件で決まります。幼児期の脳の発達を考えるとき、この神経細胞のシナプスをどうするかが 非常に重要な問題となってきます。遺伝的に決まっているものは適当に栄養を補給していれば、ある時期にそれらが出来ますが、シナプスは遺伝と環境の条件でいろいろ複雑に変わってきます。
 
☆環境からの刺激
さまざまな経験、環境からの刺激が脳の発達にどのように関係しているかを考えるうえで興味深い実験があります。 図のように子どものネズミを3つの異なった環境条件で飼育します。 Aは12匹のねずみを大きなケージに入れます。これは豊かな環境ということで遊ぶおもちゃがたくさんあり、ねずみはよじ登ったり跳び降りたりできます。遊ぶものや触れるものがたくさんあります。 Bは普通の環境ということで、普通のケージに3匹を入れておくだけです。特別のおもちゃは与えません。 Cはまずしい環境ということで、1匹だけにして狭いケージに入れます。遊ぶもの触れるものはほとんどありません。 このような3つの異なった条件でねずみを1,2ヶ月飼育すると、脳に変化が現れてきます。Bの普通の環境で育てたネズミの脳を基準に考えると、Aの豊かな環境で育ったネズミの脳は3%程大きくなります。視覚を受け取る場所は一番変化が起こりやすく、差が大きくなります。他の場所例えば前頭分野でも少し変化してきます。逆にまずしい環境で育ったネズミは脳が6%程小さくなります。刺激を与える量、あるいは生まれてからの月数によって変化は一様ではありませんが結論としては、豊かな環境で育てると脳の皮膚感覚をうけとる場所も、視覚を受け取る場所も大きくなっていくのに対して、まずしい環境で育てるとそういった領域が小さくなるということです。
図
 
☆刺激の適時性
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神経細胞同士がつながっても、そこに髄鞘(ずいしょう)というものができないとスムーズな情報の伝達が出来ないと言いましたが、この髄鞘がいつできるかは脳の場所によって違います。この図は脳の各場所でいつ髄鞘ができ始めて、いつ頃完成するかを表したものです。 例えば手足を動かす場所(運動野)から脊髄へ降りている神経(20)の髄鞘化は生まれたときに始まり、1才で完了します。これがほぼ完成するのは生後4,5ヶ月くらいです。視覚野へ来る神経(13)は生まれたとき始まり4,5ヶ月くらいで完成します。音が聞こえる場所(視覚野))へ来る神経(15)も生まれてしばらくたって髄鞘化が始まり1才とちょっとでほぼ完成に近づきます。筋肉につながる神経(1)、外の感覚器から脊髄へ来る神経(2)はだいたい生まれたときにできています。また脳幹(3〜11)も多くのところで髄鞘ができています。髄鞘化の時期は脳の場所によって違います。1年ほどたつと手足に触れると分かるようになる部分(皮膚感覚野)がほぼ完成します。また手足に命令を出す場所(運動野)も1年くらいでやっと動かせるようになります。 ところがものを考えるという非常に高級な働きをする場所(前頭前野=25)への神経は、生まれたときにはまだ働いていません。生後4,5ヶ月頃からやっと働き始めて、10年たっても未だ完成しません。20年程たってやっと完成するのです。神経細胞ができる時期は遺伝的に決まっています。考える作業を小さいときからすると前頭前野の髄鞘化の起こっている時期に合うように刺激を与えて、その場所を働かせるようにしなければいけません。2才頃までは未だ理屈でものを考えることや、十分に言葉を使うことはできません。ですから感覚機能や運動機能を高める刺激を与えておくことが、必要であると思われます。 このような発達の適時性を考えないで、いきなり抽象的思考や判断を要するような難しい知的教育を強要することは、いわば絶縁体の不十分な電線に電気を流すのと同じ危険性があります。つまりいつ漏電するか、ショートするか分からないということです。
 
☆感覚機能と運動機能
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空の青、木々の緑、暖かな南風、頬を刺す木枯らし、母親の優しい語りかけ、快い音楽、不快な音、人の匂、土の香りと手触り、花の香りと美しい色、人肌のぬくもりと柔らかさ、石の冷たさと質感・・・・・。 このようなことを言葉の領域が発達しだす前の時期に経験し、理解することが大切であると考えます。その後これらの経験と言葉が結び付き、その子の頭のなかで確固たる位置をきすくようになるのです。しかし、乳児が言葉をしゃべれないからといって言葉がけをしないということは良くありません。すでに数ヶ月の赤ちゃんの脳は左脳の神経細胞が言葉に良く反応し、雑音には反応しないということがあり、逆に右脳の神経細胞は言葉よりも雑音に良く反応します。たとえ赤ちゃんがしゃべれなくとも言葉の領域ではシナプスができ、発達しつつあることが分かります。 小脳は運動のスピードをだすことと、たくさんの筋肉を強調して使うことや、運動パターンの学習に関係がありこの領域の髄鞘化はだいたい1,2才で完了します。ただし実際に運動スピードが出るようになるためには筋肉の発達をまたなくてはなりません。 この図は生まれたときから20才迄にみられる脳と一般臓器と生殖器の成長の比較です。これで分かるように脳の成長は体のなかで最も早いのです。幼児期には1つの運動にこだわることなく基礎的な運動パターン(走る、跳ぶ、投げる、蹴る等)を覚えることが大切です。